「被害者支援」の必要性

(公)被害者支援都民センター

糸 賀 美 恵

 ひきこもり、自殺願望のある元交際相手の女性に、道連れにしようと当時25歳の長男を刺殺された遺族です。
 事件後、眠れない、食べる事ができない、外にも出られない。自分が犯罪者であるかのように家に引きこもる日が数カ月続きました。外に出られるようになってからも人目を避ける生活でした。
 事件から1年間は、息子が亡くなったということ自体理解できず、声をかけてくれる私の友人や息子の友人にも本当の苦しさを話すこともできず、事件の事では「孤立」した生活が続きました。
 人前では笑顔でいなければならないという思いがありましたが、家に帰ると、寂しさ、悲しさ、悔しさに押しつぶされそうな毎日でした。
 その後の刑事裁判では、被告人の弁護士や被告人の親にもさらに傷つけられ、あまりの苦しさに、息子のところへ行きたい…と車のヘッドライトめがけて道路に飛び出した事もありました。  事件から2年後やっと被害者支援都民センターとめぐり合い、センターのスタッフや大切な家族を亡くした自助グループの仲間に、胸の中に封じ込めていた苦しさを吐き出す事ができ、ここでは泣いてもいいんだ、苦しいのは私一人ではない、と感じたときに「孤立」から抜け出しやっと前を向いて生活できるようになりました。
 被害者にとっては裁判が終結ではありません。これから先も一生この苦しみと向き合って生きていかなければなりません。遺族ばかりではなく、生存している被害者も被害回復の為には支援センターのような苦しみを話せる場所がある、話を聞いてくれる人がいるという事で前向きに生きていく事ができるようになります。このようなあたたかい人間関係が被害回復には一番必要なことだと感じています。
 自分がこのような事件に巻き込まれるまで、被害者は国や周りの人から守られているものと思っていましたが、国も司法も生きている加害者の人権は守っても、被害者等の、見た目には解らない精神的な苦しみに目を向ける事も無く、時間がたてば自然に回復するものだと思われてきたのではないかと思われます。精神的な立ち直り無くして、元の生活に近い生活に戻る事はできません。被害者が一日でも早く立ち直って生活できる為には、身近なところに安心して相談できる場所と、被害者に理解ある人材の育成が必要だと思います。その為には被害者支援に対する国の援助が必要だと感じます。