私は、30年前にシンポジウム「被害者救済の未来像」を企画し、その5年後に警察の「被害者対策要綱」を取りまとめました。また、被害者の視点を警察行政実務に取り入れることと合わせて、警察行政において被害者の保護を理念的に位置づける考え方を、警察行政法と社会安全政策の分野で論じています。いささか私的な回顧になりますが、令和3年の時点から見た、30年前、20年前、10年前を振り返ります。
2021年は、犯罪被害給付制度および犯罪被害救援基金発足から40年、民間の犯罪被害者支援活動開始から30年という節目の年に当たるという。想えば長い年月を閲したものである。この間、被害者(その家族・遺族を含む。)を支援するための諸施策は、公的ベースでも民間ベースでも、また、経済支援から精神支援に至るまで様々な面で、格段の進化を遂げてきた。現在推進されている被害者支援のための諸施策を見ると、その充実ぶりは、40年前ないし30年前の時代と比べて、まさに隔世の感がある。この間、使命感と情熱をもって、諸施策を牽引してこられた関係各位のご尽瘁に心から敬意を表する次第である。
犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)の基本理念にあるとおり、犯罪被害者等の支援の最終的目標は平穏な日常生活を確保することですが、個別の生活場面だけではなく被害直後から医療・福祉、住宅、雇用など「生活全般にわたる支援」という切口でその取組が強調されたのは、ここ数年来のことではないかと思います。2008年、基本法を踏まえた犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の改正により、被害の早期軽減にとどまらず、支援の射程が、平穏な生活の確保までとすることとされましたが、2016年にスタートした第3次犯罪被害者等基本計画において、同計画のポイントの一つとして被害者等の「生活全般にわたる支援」が掲げられ、その項目として「専門職の活用を含めた地方公共団体における支援の充実促進」と「民間の被害者等の援助を行う団体の活動促進」の2つが示されました。そして、同計画には、被害者等に対して「生活全般にわたる支援」を提供できるよう地方公共団体や民間団体とともに、継ぎ目のない支援体制を構築し、被害者等を中長期的に支援するという視点からの体制整備への取組が行われなければならない、ということが記載されたのです。今、まさに、被害者等の身近なところで、平穏な生活の確保まで「生活全般にわたる支援」が求められているのです。
当基金は、昭和55年の犯罪被害者等給付金支給法成立に際し、衆参両議院で、経済的に困難な状況にある犯罪被害者の遺児等に対する奨学金制度の創設を促す附帯決議がなされたことを受けて、昭和56年5月21日、民法第34条に基づく公益法人として設立されました。その後、公益法人制度改革が行われ、平成23年4月1日に公益財団法人犯罪被害救援基金に移行しましたが、発足以来、令和3年5月に創設40周年を迎えました。国会の附帯決議を契機に当基金が創設された次第ですが、当初は運営資金の確保に大変なご苦労があったと聞いております。しかし、基金の公益事業への賛同・支援の輪が徐々に拡がり、経済界はじめ多くの国民の皆様からご寄附が寄せられたおかげで、当基金は、これらの浄財を基本財産として、人の生命又は身体を害する犯罪行為により不慮の死を遂げ、又は重障害を受けた犯罪被害者の子弟に対する奨学金の給与及びその他の犯罪被害者等に係る救援事業を40年にわたり継続することができました。
ここまで数々の困難を乗り越えて活動を続けてこられた方々の持続力に敬意を表したいと思います。現在では警察と連携した支援の方式、例えば被害者への早期支援の在り方や、裁判の支援など、様々な支援活動が、安定した活動として位置付けられており、犯罪被害者支援に大きな役割を果たしています。大学の授業などで、被害者支援の活動があって当然だと考えている若い人を見ると、この30年の変化に驚かされます。