日本財団は犯罪被害者支援に取り組む中で、支援に携わる多くの方々のお話を伺い、我が国の犯罪被害者支援が未だ十分とはいえない点があることを痛感しております。そこで、民間による真の被害者支援のために、必要なことは何かを問い続けながら、助成事業の在り方を求めて参りました。
私が犯罪被害の問題に取り組むようになったのは、犯罪被害者等基本法(以下、基本法)の制定以後のことであり、この分野の研究者としては「若輩」ですが、このような執筆の機会を与えていただき感謝いたします。犯罪被害者にかかわる動向を俯瞰すると、経済的支援、精神的ケアから始まり、被害者の権利獲得のための運動、そして近年は被害者のニーズを満たすための制度・施策等の推進へと大きく流れが移ってきています。そのような流れのなかで社会福祉(ソーシャルワーク)が果たす役割は大きくなっています。
犯罪被害者支援の歴史と犯罪被害者の遺族の活動は深い関わりがある。犯罪被害給付制度以前、公的な犯罪被害者支援がない現状に対して、1967年に息子さんを殺人で失ったご遺族である市瀬朝一氏が「犯罪による被害者補償制度を促進する会」を立ち上げたことが最初の草の根の活動であったとされている。その後三菱重工爆破事件(1974年)を契機に1980年に犯罪被害者給付制度が設立されるが、残念ながら市瀬氏はその制度の設立を見ることはできなかった。犯罪被害給付制度は国による最初の被害者への経済的支援であったが、この時点では被害者のメンタルヘルスのケアはまだ支援の対象とされていなかった。
これまでに数多くの都民センター利用者が、有効なPTSD 治療の恩恵を受け、犯罪被害による精神的後遺症からの回復の道をたどることができました。その実績から、当初は2名の心理専門職で取り組んでいたPE 療法を、現在の都民センターでは7名の心理専門職が実施しています。そのうち4名は同療法のスーパーバイザーとしての指導者資格も有しています。さらにコロナ禍の下では、ウェブを利用したオンライン形式での同療法の提供も積極的に活用しています。
この度、「あすの会が果たした役割とつなぐ会の活動が目指すもの」とのテーマで執筆依頼を頂き、私にその資格があるのかと途惑いましたが、私が見てきたあすの会、と読み替えて書かせて頂くことと致します。