私は、平成26年度、27年度の2年間にわたり検察庁から内閣府に出向した。当時、内閣府の政策統括官(共生社会担当)に犯罪被害者等施策推進室が置かれ、その担当参事官を務めることとなったのだ。犯罪被害者等施策推進室の室長には、内閣府訓令により共生社会政策担当の大臣官房審議官が充てられ、同審議官以下、参事官1名、常勤職員5名の体制がとられていた。平成26年4月当時、犯罪被害者等施策推進室は、霞が関の中央合同庁舎4号館にあったが、その年の夏、新しく整備された中央合同庁舎8号館に移転した。日常の事務を行いながらの引越し作業は、職員にとっても結構な負担であったが、新庁舎において清々しい気持ちになったことをよく覚えている。
私は、警察において犯罪被害者支援等を冠したポストを経験することは無かったのであるが、平成25年2月から平成27年1月までの間、警察庁長官官房審議官として、犯罪被害者支援も担当することとなり、犯罪被害者等施策推進会議専門委員に任命され、犯罪被害給付制度における親族間犯罪被害に対する支給特例の拡大や国外犯罪被害者遺族弔慰金支給法案への対応等の業務に従事した。そうした縁で今回、本記念誌に寄稿させていただくこととなったものである。
私は、「20年誌」ではその企画編集に携わりつつ、今日の被害者支援の出発点となった平成3年の「10周年記念シンポジウム」から13年の犯罪被害者等給付金支給法の全面改正までを中心に書かせていただき、「30年誌」では13年改正を再度振り返りつつ、その後筆者が関わった被害者施策、特に山形県警察本部長を務めていた時に手がけた全国初の緊急貸付制度や、全国3番目で、被害者支援についても盛り込んだ「飲酒運転防止条例」、そして私の離任後に実現を見た、全国3番目の特化条例である「山形県犯罪被害者支援条例」を中心に書かせていただいた。
私は、30年前にシンポジウム「被害者救済の未来像」を企画し、その5年後に警察の「被害者対策要綱」を取りまとめました。また、被害者の視点を警察行政実務に取り入れることと合わせて、警察行政において被害者の保護を理念的に位置づける考え方を、警察行政法と社会安全政策の分野で論じています。いささか私的な回顧になりますが、令和3年の時点から見た、30年前、20年前、10年前を振り返ります。
犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)の基本理念にあるとおり、犯罪被害者等の支援の最終的目標は平穏な日常生活を確保することですが、個別の生活場面だけではなく被害直後から医療・福祉、住宅、雇用など「生活全般にわたる支援」という切口でその取組が強調されたのは、ここ数年来のことではないかと思います。2008年、基本法を踏まえた犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の改正により、被害の早期軽減にとどまらず、支援の射程が、平穏な生活の確保までとすることとされましたが、2016年にスタートした第3次犯罪被害者等基本計画において、同計画のポイントの一つとして被害者等の「生活全般にわたる支援」が掲げられ、その項目として「専門職の活用を含めた地方公共団体における支援の充実促進」と「民間の被害者等の援助を行う団体の活動促進」の2つが示されました。そして、同計画には、被害者等に対して「生活全般にわたる支援」を提供できるよう地方公共団体や民間団体とともに、継ぎ目のない支援体制を構築し、被害者等を中長期的に支援するという視点からの体制整備への取組が行われなければならない、ということが記載されたのです。今、まさに、被害者等の身近なところで、平穏な生活の確保まで「生活全般にわたる支援」が求められているのです。