ここまで数々の困難を乗り越えて活動を続けてこられた方々の持続力に敬意を表したいと思います。現在では警察と連携した支援の方式、例えば被害者への早期支援の在り方や、裁判の支援など、様々な支援活動が、安定した活動として位置付けられており、犯罪被害者支援に大きな役割を果たしています。大学の授業などで、被害者支援の活動があって当然だと考えている若い人を見ると、この30年の変化に驚かされます。
刑法学の世界に入って最初に関心を抱いたのは過失犯でした。1970年代の過失犯論争を学んだことから、過失犯罪者の研究に取り組むことにしました。過失犯罪者の大半は交通犯罪者だったので、同志社大学大学院での研究テーマは「交通犯罪者の処遇」となりました。この時代には、まだ犯罪被害者、とくに交通犯罪の被害者の問題は大きく取り上げられていなかったので、この時点では被害者の問題は取り上げていません。その後、指導教授の大谷實先生のご指導もあり、被害者についての研究を開始したのは、1990年代の終わりです。
「刑事司法は、社会の秩序の維持を図るという目的に加え、それが『事件の当事者』である生身の犯罪被害者等の権利利益の回復に重要な意義を有することも認識された上で、その手続が進められるべきである。この意味において、『刑事司法は犯罪被害者等のためにもある』ということもできよう。」この一節は、2004年の犯罪被害者等基本法の成立を受けて、翌2005年に閣議決定された犯罪被害者等基本計画において、その重点課題の一つである「刑事手続への関与拡充」の意義を説明する文章の中に盛り込まれたものである。犯罪被害者が、捜査・公判を含む刑事手続について、犯人を適正に処罰することにより事件の正当な解決をしてもらいたいという希望を持つのは当然のことであり、刑事手続がその希望に応えるように運用されるべきであることは、それまでも意識されていなかったわけではない。しかし、法律的には、犯罪被害者は、刑事手続の中で証拠方法の一つとしての位置付けしか与えられておらず、自ら刑事手続に参加し、その結果に影響を及ぼす訴訟行為をすることはもちろん、刑事司法機関に対し、事件の正当な解決を求める権利も認められていなかった。
今年、2021年(令和3年)は、犯罪被害給付制度が施行されてから40年、民間の被害者支援が始まるきっかけとなった犯給制度発足10周年記念シンポジウムから数えて30年という節目の年に当たる。日本被害者学会も1990年の設立であるから、昨年、創立30周年を迎えている。この間、全国に民間の被害者支援センターが整備され、犯罪被害者に対する相談や直接支援事業が着実に実績を積み上げてきている。また、実現した被害者支援制度も多岐に亘る。被害者への情報提供という面では警察の被害者連絡制度や検察庁の被害者等通知制度により刑事手続の進捗状況等についての情報が通知されるようになり、消極論も根強かった刑や処分の執行状況に関する情報提供も実現している。被害者が捜査の過程で負担を被ることがないよう様々な配慮がなされるようになり、遮へい措置やビデオリンク証言、被害者等の特定事項の秘匿など公判での二次被害を予防するための各種制度も設けられるに至った。また、被害者の手続関与については、被疑者・被告人の人権保障の観点から反対論も唱えられたが、被害者が公判で意見陳述を行い、或いは少年審判の過程で意見聴取を受ける制度が導入され、ついには一定の範囲で被害者が公判に関与する被害者参加制度も実現し、概ね良好に運用されている。こうした各種制度の実現には、2004年に制定された犯罪被害者等基本法とそれに基づく犯罪被害者等基本計画の策定が大きく寄与したことも忘れてはならない。
本年は、民間団体による犯罪被害者支援活動開始30 年・犯罪被害給付制度発足40 年という節目の年となります。本誌は、その記念事業の一環として、企画されたものです。