筆者は当時、東京医科歯科大学難治疾患研究所において、司法精神医学を専攻する精神科医(助教授)であった。主な研究課題は、犯罪と犯罪者の精神医学的研究と、精神障害の状態で犯罪行為に及ぶ者(触法精神障害者)の再犯防止策の研究であった。後者は、日本の刑法の制度的欠陥に起因する課題であり、犯行当時責任無能力の状態にあった精神障害者は罰しないと定めながらその後の処遇についての規定が無く、そのため釈放して、一般の精神病者処遇施設に収容することでその代用としてきたが、戦後、精神科病院の開放化が進む中で、その代役を果たせなくなっていた。