犯罪被害者に寄り添い支える 公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク

全国被害者支援ネットワークは、全国48の加盟団体と連携・協力しながら
犯罪被害に遭われた方々へ支援活動を行なっています。

犯罪被害者の声 事件から20年

事件から20年

公益社団法人被害者支援センターとちぎ
自助グループ 証
K・K
「犯罪被害者の声 第16集」より

夫が殺害されてから令和3年10月31日で20年が過ぎたところです。市役所の職場から退庁したのは職場の人たちもきちんと見ていたのですが、その日、帰宅しませんでした。帰って来ない夫の携帯に電話をかけ続けたのですが、呼び出し音だけで夫が出ることは一度もありませんでした。翌朝、職場近くの田んぼの中にカバンや本、自転車が散乱していたのですが、夫の姿はどこにもありません。「一体何があったの?」想像もつきません。ただ、夫にとって、とんでもない事態が起きたのかもしれないとは理解できました。その後、私たち家族は夫を探し続け、情報提供を得ようと、市役所と一緒にチラシを作り配布もしましたが、有力な情報はほとんどありませんでした。それでも時々、見知らぬ方からの電話を受けると、夫の情報かも、と期待をします。しかし、その大部分は夫の居場所を教えるかわりに金銭を要求するものでした。丁寧にお断りすると「もう生きていないよ。」と言われてガチャリと電話を切られたこともあります。人の不幸に付け込んで……と、悔しい思いを何度もしたものです。
約1年3か月後に殺害されていると警察から告げられた時は辛くて、悲しくて、私は臥せってしまいましたが、変わり果てた姿でも、やっと、帰ってきてくれるとほっとしたのも事実です。
それから20年、夫の遺体はまだ戻ってきません。正確な遺棄場所さえ分かりません。殺害を依頼した主犯は市内の廃棄物処理運搬業者で、悔しいことに逮捕される前に自ら命を絶ってしまいました。そして、殺害の実行犯3人は、元暴力団関係者で、夫の殺害の報酬として1500万円近くのお金を受け取っているそうです。この両者を仲介した者は主犯業者の下請をしていた人物です。主犯以外の4人のうち2人はすでに刑務所内で病気により死亡し、残りの2人はそれぞれ令和2年の12月に満期出所、令和3年の6月に満期1か月前の仮出所で、すでに、社会に戻っています。仮出所の加害者には1か月という短い期間でしたが、保護観察官を通して夫の遺棄場所を尋ねてもらいました。しかし、この人物は仲介しただけなので、遺棄場所は知らないという返事で、非常にがっかりしました。もう、私のなすすべはなく、夫を家に連れ帰る希望も絶たれてしまいました。加害者側は長い期間、束縛を強いられた生活ではあったかもしれませんが、今では自由の身になって自分たちの犯した罪など忘れて、生きていることでしょう。法的には当たり前のことで当然と分かっていても、私の理性は受け入れることが出来ずに悔しい気持ちが増すばかりです。夫は永遠に我が家に戻れない確率が高くなってしまいました。
夫がいなくなってからの20年、家族には嫌なことばかりの連続です。二次被害に悩まされ、事実でない風評被害にも家族で涙を流し、息子と娘は仕事を失い、生活基盤を無くした不安におののき、深く心を閉ざしたままで、人間不信は今でも続いています。また、家族三人三様に色々な病気に悩まされ、「精神的なものが原因でしょう。」と、医師に言われてもどうすることも出来ず、ただただ、病気と上手に付き合うしかありませんでした。犯罪被害者としての過酷な運命は想像を絶するものです。それでも生きていくことを諦めてしまったら、一番悲しむのはやはり夫でしょうから、何とか生きていくしかすべがありません。
夫を失ってから20年、すでにいないことにも十分慣れてきたつもりでも夫婦二人で、家にある『さつき』の盆栽を手入れしようと話をしていたので、花が咲くたびに、「約束違反でしょう。」とつい、仏前で愚痴をこぼしてしまいます。手入れ不足で枯らした鉢も沢山ありますが、それでも6月になって色とりどりの花を見ると「今年も日光や晃山、暁天がきれいに咲いたわよ。」
と、得意になって報告しています。ただ、私の年令を考えると、あと何年伝えられるか、少し疑問ですが、夫の分も『さつき』に囲まれて過ごせたら、喜んでくれるだろうと勝手に思っています。
私は夫が犯罪に巻き込まれるなんて、考えたこともありませんでしたが、当事者になって、初めて誰にでも起こりうることだと気づきました。だからこそ、どうしても皆さんにお願したいことがあります。
私たち一人ひとりが犯罪の加害者にも被害者にもならないように心がけることです。簡単なようで難しいことだと思います。人に対する優しさ、思いやり、ご自分を含めて人の命を大切にすること。いろいろあるかもしれません。他人事と思わずもっともっと真剣に考えてみてください。
それでもなお、犯罪被害に遭ってしまったら・・・・・。ひとりで悩んだり、解決しようとしないで下さい。被害者支援センターがあることを思い出してみてください。
私は平成18年からセンターと関わらせていただき、電話相談や広報活動をこの3月まで続けてきました。被害者は悲しいこと、辛いこと、嫌なことなど、沢山の問題を抱え込んでいます。その一部分でも吐き出すことができれば、心が少し軽くなり、ほんのわずかでも前を向けると思います。
支援センターは被害者の皆さんと一緒に歩んでくださるところです。
私はセンターの活動を続けたからこそ、少しずつ被害回復に繋がったと思っています。
夫はこれからも冷たい雪の下で眠ることになることでしょう。私は命の続く限り、帰りを待ち続けます。