私の目の前で、妹が消えた~交通事故の被害者の姉になって~
公益社団法人おうみ犯罪被害者支援センター
H・N
「犯罪被害者の声第15集より」
私の妹は、交通事故被害者です。
妹が小学校1年生、私が5年生の3月。習い事の帰りで午後6時を過ぎ辺りが暗くなり始めていたときでした。信号が青になり、横断歩道を渡っていた妹が横から走ってきた車にはねられました。
その時の光景は4年が過ぎた今でも忘れることができません。
その時間帯に自分の家の前を通り過ぎて行く救急車の音が聞こえたり3月の独特の気配を感じたりするとそのときの出来事のフラッシュバックが起きてしまいます。
運転していた人の信号無視によって起きてしまった事故なのになぜ妹や家族がこんなにも長い間苦しまなければならないのでしょうか。どうしてこんなにも辛くて悲しい思いをしなくてはならないのでしょうか。どうして私の妹が事故にまきこまれてしまったのでしょうか。この出来事によって私たちの楽しくて幸せな日々が一瞬にして奪われてしまったのです。
忘れてはいけないことは、肉体的な事故の被害を受けた本人だけでなく精神的に被害を受けた本人の家族や親戚も被害者だということです。この事故によって心や体が傷ついてしまった人たちがたくさんいることを知ってほしいです。
現在、私もPTSDでふとした瞬間に頭の中で事故当時の光景が流れてしまったり、急に不安になってしまったりして普段の生活の中で苦しんでいます。私だけでなく兄や母や父も同じことで苦しんでいます。
もちろん、妹も苦しんでいます。治る可能性の低い後遺症と痛々しく残った手足や顔の傷から被害の大きさが伝わってきます。
妹が負った後遺症の症状は大きく目立つことはありませんが、普段の日常生活の中で少しの異変が多く見られます。
例えば、走ったときに少し足を引きずるような違和感、私はこの違和感のある走り方が事故後に分かった大腿骨の骨折から現れているのではないかと思いました。
他に気づいたことは握力の差です。左手は小学生平均の力があるのですが、右手は握力がほとんどなく物を持つのが危なく感じるほどです。両手の力の差が明らかに違うことが分かります。その他では、事故前より感情のコントロールが上手くできなかったり、記憶する力が少なくなっていたり、小学校の学習のスピードに追いつけなかったりと前までできていたことができず、本人も知らない内にストレスとなってしまっていたりと彼女もすごく大変な思いをしています。
私の当時の心情は、自分でもよく覚えていませんが習い事の帰りに自分の大切な妹が、たった1人の目撃者である私の目の前で、自分の視界から消えていった恐怖は今でも忘れられません。その日は自分を責めました。どうして姉である私がすぐ近くにいたのに助けることができなかったのだろう、引きとめていればこんなことにならなかったのに、その日はショックのあまり頭の中が真っ白で何も受け入れることができませんでした。
家族も相当ショックを受けたと思います。何も見てない、何も知らない間に妹が事故に遭っていたのですから。まさか自分の家族が車にはねられるなんて思いもしなかったでしょう。大きな事故に遭った経験が一度もなかった私たちにとっては、それほど大規模なショックだったのです。
そんな私たちの心に寄り添ってサポートしてくださっているのが、おうみ犯罪被害者支援センターの方たちです。その人たちは、裁判の傍聴や今後どうしたらいいのかのサポート、それから被害を受けた人たちの心のケア、私はその人たちの心のケアにたくさん救われました。私の抱えていた悩みや不安を彼女たちは全部受け入れてくれました。
時々電話で最近の心や体の調子も気にしていてくれて、1人で抱えこまなくていいんだ、1人じゃないんだということに気づくことができました。おうみ犯罪被害者支援センターの人たちにはとても感謝しています。
もし、私たちと同じような環境で苦しんでいる人がいたら、そういう機関があるということも知ってもらいたいし、少しでも楽になれるように1日でも早く気持ちがすっきりするように機関に頼ってお話を聞いてもらえればいいなと思います。
そしてなにより被害者の心が、気持ちが少しでも救われてくれたらいいなと願っています。
事故は、順調だった私や家族の人生を一瞬で変えてしまいました。もしかしたら私もいつか加害者になってしまうかもしれない、誰でもなりうる事です。交通ルールを守っていても危険が潜んでいて完全に安全ではないことを学びました。
実体験を通して感じたことは、体の傷が消えたとしても心に深く負ってしまった傷は一生消えないということです。
事故から4年が経った今でも、ちょっとしたきっかけで当時のことを思い出してしまいます。
「あの時、自分がしっかりしていれば・・・」
「本当は自分が悪かったのではないか」
考えていくほど悲しい気持ちになり、泣いてしまう日もあります。そんな気持ちともちゃんと向き合っていくために、今でも病院やおうみ犯罪被害者支援センターに通い、心のケアをしていただいています。被害者支援センターの方々は、いつも私のことを気にかけてくださっていて、お手紙もよく頂いています。今でも、出会った当時と同じように優しく対応してくれて、私のサポートをしてくれていることに感謝しています。さらに、その方々は妹の心のケアもしてくださっていて、私も妹も支えられています。
苦しんでいるのは、もちろん私だけでなく、妹も苦しんでいます。
4年が経っているのに、右手・右足がうまく動かなかったり、傷がきれいに消えていなかったりと、目で見て分かる症状や、事故前より気分の上下が激しくなったり、物事を覚えることが難しくなっていたり、本人にしか分からないことも多く、日常生活でも困っているそうです。
それらを彼女自身の言葉で表現するのが難しいそうで、学校の先生に自分の思っていることを伝えられず、学校に行くのが苦痛と感じているそうです。
このように、私たちは何年経っても苦しんでいます。車を運転している際の信号無視は絶対にあってはならないことだと思っています。このような事故がなくなっていくことを私たちは願っています。