出 所
公益社団法人くまもと被害者支援センター
K・Y
「犯罪被害者の声 第14集より」
20歳の次女が事件に遭い殺害されたのは、2003年9 月26日のことです。大学生活を謳歌していた娘にとっては非常に無念だったことだろうと思います。
娘が加害者と知り合ったのは、私が(彼女の)高校入学祝に買い与えたパソコンが原因でした。当時、二つ上の姉と四つ下の妹の3人の娘たちが同じパソコンで色々な人たちとメールのやりとりをしていました。多い時は3 人で20人以上だったと聞いています。当時、娘たちはパソコンを通じて多くの人たちととても楽しい時間を共有していた様に思います。私の家族は年に一回、海水浴や遊戯施設に行き、誕生日を一緒に祝い、夕食も必ず全員で食べるような普通の親子(家庭)でした。しかし、やはり年ごろの女の子だった娘たちはパソコンの相手に色々な事を話し、相談するようになりました。父親よりパソコンの相手の方が話しやすかったみたいです。感情を伴わない文字だけの世界は娘たちに安心感を与えました。しかし、1 年、2 年と時を経るにつれてメールの相手は一人減り二人減りと少なくなり続け、3年ほど経つと次女と加害者だけが残ってしまいました。
その加害者というのはずっと後になって分かったことなのですが、私と近い年齢の男性だったのです。大阪に住み、家族がいる男性で、娘の年齢に近い子供もいました。パソコンで知り合った当時、加害者は普通の人生を歩んでいました。しかし娘と知り合ってからの4年間という月日の中で色々なことが起こります。金融系の会社がなくなり無職となります。家族が段々と不和になり事件の直前は、西成地区で日雇いの仕事をする様になっていました。
そのような中で、加害者は娘と人生をやり直したいと考えるようになっていきます。しかし娘は20歳になり、大学の授業や友人関係、サークルにアルバイト、そして新しいボーイフレンド等々、本当に楽しい大学生活を送るようになっていました。そのような中で、加害者の、娘と結婚をしてほしいという申し出に対して、娘は当然のように断りました。すると加害者は、4 年前には幸せだった自分の人生が、だんだんと悪くなってしまった理由を娘のせいだと思うようになりました。
そして加害者は2003年9 月25日、娘を殺害するために熊本に来ます。携帯電話は〇〇地区の宿に置き、深夜トラックを利用して来熊し、娘のアパートの一室で絞殺して娘を大きな袋に入れ、バスや新幹線を使い、山頂付近の土の中に遺棄しました。すべては完全犯罪を行うためです。実際に警察はそのことを立証することができませんでした。裁判では私たち遺族には頭一つ下げることなく嘱託殺人だった等々、自分に都合の良いことだけを主張しました。
しかし裁判所は16年の求刑に対して15年という判決を下しました。加害者の自供(娘を遺棄した場所の特定により事件化した)がなければ解決しなかった事件ですが、裁判所は娘に落ち度が無く、加害者が一方的に悪いと認めてもらったように思います。裁判には八掛けという言葉があります。15年だったら12年です。10年だったら8年になります。
変な話かもしれませんが、私は事件当初から加害者を恨む気持ちは少なかったのです。娘を殺したのはパソコンを買い与えた私自身だと思っているからです。17年たってもこの気持ちは決して変わることはありません。罪と後悔の17年間です。
事件とは関係ない娘の20年間の中のたくさんの思い出です。なんで肩車をしてやらなかったのだろう。なんで上等な竹刀を買ってあげなかったのだろう。なんで一緒にかけっこをしなかったのだろう等々、本当に娘と生きた20年間の間に起きた些細なことまですべて後悔です。
事件後、私は加害者には死んでほしいといつも思っていました。早く自殺なり病気で死んでくれないかなと思い続けました。しかし、加害者は2018年の11月にとうとう仮出所してきました。最初は保護観察がついていたのですが、2019年2 月以降は何をしてどのような生活をしているのか全く知ることができません。
刑務所内にいる時は、加害者のことをあんまり考えることはなかったのですが、今は何かにつけて加害者のことを想像します。どのような生活をしているのか。自由に今を生きることに幸せを感じているのではないか。自分の家族と会い、子供たちの成長を幸せに思っているのではないか。考え出したらきりがありません。今は加害者の事が気になってなりません。何かにつけて加害者のことを想像します。
このように現在、私の人生の中で加害者のことを考える時間があることに嫌悪感を感じます。この17年間もの間、私を苦しめてきた娘の事件です。娘の事だけを考えていられたら良かったのに、今は加害者が日ごろの生活の中で頭の中に出てくるのです。私の残された時間の中に、加害者の事を考える時間があることがイヤでイヤでたまりません。
一日でも早く加害者を心の中から消し去る日がくることを心の底から望んでいます。