たった一人の兄
公益社団法人被害者支援センターとちぎ
R・K
「犯罪被害者の声 第14集より」
「証」を書く時間… お兄ちゃんと向き合う時間…
過去を思い出し、いろいろな感情が溢れ出す時間…
そして、今の私が居ることに深く深く感謝をする時間…
この時間は、私にとって特別であり、貴重な時間である。
2000年9 月25日(月)、大切で大好きなお兄ちゃんを奪われた。
恐ろしい交通事故という犯罪で…。
あの日の悲しみも苦しみも悔しさも、夢ならどれほど良かったでしょう。
お兄ちゃんの事故の連絡が来て、お母さんが急いで向かった。
小学4 年生だった私は、胸がドキドキして、お家でいつも家族を見守ってくれていただるまさんに向かって、「どうかどうか、お兄ちゃんが無事でありますように。」と手を合わせ願い、きっとすぐ帰って来る、ケガをしているくらいだろうな、と自分を落ち着かせるのに必死だった。
あの日、あの時、あの空間の気持ちが、今でも鮮明に蘇る。
テレビを見ながら、朝ご飯を食べ、お母さんに髪を結んでもらい、お兄ちゃんの「行ってきます」に何も答えなかった私。
こんなことになるのならば、お兄ちゃんを引き止めてもっと話していたら、あのトラックに出会わなくて済んだかもしれない。
悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。
10年間、毎日一緒に居たのに、まるで嘘みたい。
もう18年も会っていないなんて…。信じられない。
今は夢でしか会えないね。これが現実なんだよね。
ねえ、お兄ちゃん。この間、久しぶりに夢に出てきたね。
相変わらず、かっこよくて、お兄ちゃんがいきなりお庭の窓から現れた。私は信じられなくて、嬉しくて、興奮してたね。
お兄ちゃんに、「ねえ、家族のこと見えてるの?」って聞くと、
「すごい遠いけどね。」
「いつもお願い事ばかりしちゃってごめんね。」って言うと、
「それでいいんだよ。」って…。
起きて現実に戻った。夢の中で、お兄ちゃんの優しさに触れた時、私は涙で前が見えなかった。もっともっと話したい事、聞きたい事、たくさんあったのに…。
でもそれ以上にお兄ちゃんに会えたあの瞬間は、ほんっとに幸せで、安心できるあの温もりをなんか感じた。
神様が本当に居るなら、「お兄ちゃんを返してください。」頼むことはそれしかない。
お兄ちゃんが居なくても、強く生きるしかない。前を向くしかない。
そんなふうに強がっていたけど、お兄ちゃんの姿に夢で会えた瞬間、すがりつきたくて、甘えたくて、ずっと一緒に居たくて仕方なかった。
ねえ、お兄ちゃん。だから、たまには泣いても良いよね?
弱音を吐いて良い?
どうして、どうして、どうして、私のお兄ちゃんなの?
誰かが身代わりになってくれたら良かったのに…。
そんなふうに思ってしまう私がいる。
私の日常の中で、友達やママ友同士で必ず出てくる兄弟話。
お兄ちゃんの存在を隠さず言えるようになったけど。
「離れて暮らす兄弟が帰って来る。」「姪っ子や甥っ子が可愛い。」
周りは何気なく話して来るけど、一人になった瞬間、悔しくて切なくて、また涙が止まらなくなる。
「私もお兄ちゃんに会いたい。」その気持ちがどんどん強くなる。
どれだけ強く願っても、私のお兄ちゃんは帰って来ない。
今、あなたが大切に想う人。
毎日、当たり前に笑い合ってた人。
いつも傍に居る愛おしい人。
そんな存在が、明日いきなり消えるかもしれない。
私達が生きている毎日は奇跡で溢れている。
どうか、この「奇跡」に感謝して生きてほしい。
今、あなたの命と大切な人の命が生かされていることを当たり前に思わないで…。
私のお兄ちゃんは、「戻らない幸せ」があることを最後に身を削って教えてくれました。
お兄ちゃんのたった一つの命に「ありがとう。」を伝えたい。