犯罪被害者に寄り添い支える 公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク

全国被害者支援ネットワークは、全国48の加盟団体と連携・協力しながら
犯罪被害に遭われた方々へ支援活動を行なっています。

犯罪被害者の声 (意見陳述書より)

(意見陳述書より)

公益社団法人おうみ犯罪被害者支援センター
匿 名
「犯罪被害者の声 第18集」より

あの事件が起こった日から、それまでの私の人生の全てが変わってしまいました。

あの夜、私はナイフで刺された傷口から血を流しながら、やっとのことで家に帰りつきました。両親はびっくりして警察に連絡し、救急車を呼んでくれて、父は警察へ行き、母は病院に付いて来てくれました。
命にかかわるケガだったそうで、手術は明け方までかかり、母は一晩中、寝ないでずっと待っていてくれました。
父も朝方まで警察で事情聴取を受けて、その日、担当された刑事さんは、寝ずに犯人の行方を調べてくれたそうです。
翌日、目が覚めた私は混乱していて「両親や刑事さんにも迷惑をかけてしまった」と考えてしまったり、せっかく助かって生きている自分の状態すら受け止めきれずに、「生きること」「命」「死ぬ」などのことが頭の中を巡っていました。

その日から、私の心や体に変化が起こりました。
電車に乗るのが怖くなったのです。
一人で行動することもできなくなりました。
それで、学校にも行けなくなって、私一人だけがオンラインで授業を受けることになったのです。
5月から8月まで、私だけがそんな授業の受け方になってしまい、クラスの友だちともどんどん差が大きくなっていきました。
一人だけで授業を受ける日が続くと、それまで普通に喋ったり遊んだりしていた友だちと関わることもなくなってしまいました。

ようやく、母に送ってもらって学校に行けるようになってからも、周りのみんながあの事件のニュースを見て、被害の内容を知っていて、私のことも知られているのかもしれないと、事実かどうかわからないことまで、「知られているのではないか」と思ってしまいました。
そうなると、「私は、みんなから気持ち悪く思われているのかもしれない」と勝手に思って「学校に行きたくない」という気持ちが強くなりました。
先生からも、あの事件のことで気を遣われているような気がして、とても申し訳なく感じていました。
それまでは普通に仲良くしていた友だちとも、気持ちも、考えていることも、行動も、何もかもが、すれ違ってしまったように思いました。

そのせいで、学校に行っても誰とも話せなくなりました。それは、今もまだ続いていて、ほとんど話をしないままの淋しい学生生活を送っています。

学校以外の生活でも、事件は影響していました。
大きい音がすると、ビクッとして、とても恐怖に感じます。
救急車のサイレンの音がとても気なります。
当然、バイトもできなくなって、全部やめてしまいました。
なので、それまで貯めていた貯金もなくなる一方で、好きなことは何一つできない、ほしい物も買えない、何の楽しみも喜びも感じられない、味気ない生活になったのも、あの事件のせいなのです。

でもそれ以上に辛いのは、「こわい」という気持ちです。
犯人は、私の印象ですが、髪の毛が長めで、前髪を分けていたような記憶があります。
そういう感じの男性を見ると、とても怖くなります。そういう感じの人ではなくても、知らない男性に声をかけられるだけで、怖くて逃げだしたくなります。

その他にも、大好きだったウォーキングにも行けなくなりました。
人を信じられなくなって、誰に何を言われても疑ってしまうようになりました。
家族以外の誰にも、本心を話せなくなり、仲の良かった友だちに相談することもできなくなってしまいました。
こんな考え方になってしまった自分を、
ほめてあげることもできなくなり、
他の人のことをうらやましく思うようになって、
それまでの、元気に学校に通って友だちといっぱい喋っていた自分は、どこかに行ってしまったのです。
事件から、もうだいぶ日が経ちました。それでも、なかなか元に戻らずに、こんな状態がいつまでも続いていました。
自分が嫌になってしまって、でも自分の力だけではどうにもできなくなって、
とうとう心療内科に通うことにしました。
でも、そこで頂いた薬を飲むと、副作用で眠くなってしまうのです。
実習先で眠くなって迷惑をかけてしまわないように、前もって私のこんな事情を話しておかないといけない、でもやはり、こんな話は言いたくない、そんなことでも葛藤しないといけないのはとても辛いことでした。
これから先も、こんな思いが何度も出てくるのかと思うと、もうこの先の自分の人生に希望が持てなくなってしまいます。
私は、本当に社会人として働いて、生きていけるの?
私は、この先ずっと、こんないやな思いをしながらも生きていかなければいけないの?
私には、もう生きていく意味が分からない。
そんなことを何度も何度も思いました。
そしてついに「死にたい」と言ってしまいました。

家族や友だちは、「そんなこと言わないで」「そんなこと言ってはダメ」と言います。 でも私は、「誰のために生きているの?」
「何のために生きているの?」
「なぜ私が生きていないといけないの?」
「なぜ私は生きていたいの?」
と繰り返し、そんなふうに思ってしまうのです。
そんな当たり前の、何よりも大切な「生きる」ということすら、わからなくなっているのです。

「こんな事件にさえあわなければ、私は前のままの私だったはずなのに」
と思います。
けれども、
「こんなことを考えてしまうのは、自分の弱さのせいなのかもしれない」
とも思ってしまいます。
前に比べてできないことが増えたり、
人に迷惑をかけていると思ったり、
そんな自分が情けないと思ったり、
恥ずかしいと思ったり、
もっと言えば、私は幸せになれない人間だったのかもしれない、
とまで思ってしまう自分が、辛くて悲しくてどうにもならないのです。

「こんな事件にさえあわなかったら」
そればかり思います。

私をこんなに苦しめた犯人に言いたいことがあります。
自分のしたことに真剣に向き合ってください。
自分のしたことを後悔し反省していると言うのなら、
自分の犯した罪を一生かけて償ってもらいたいと思います。
私の人生を、家族の生活を、みんなの安心できる毎日を、返してください。
今も、私は、毎日がとても怖いのです。
どうか裁判官の皆様、私のこの気持ちをわかってください。
そして、この犯人にできるだけの重い罰を与えてください。