卓馬のしている抑止力
公益社団法人被害者支援センターとちぎ
T・O
「犯罪被害者の声第12集より」
小学生が集団登校する。私たちが日常生活でよく目にする光景の中で事件は発生してしまいました。平成23年 4 月18日 7 時38分頃に登校中の小学生の列にクレーン車が突っ込み、小学生 6 人が犠牲になってしまった事件です。事故の大きな原因はクレーン車を運転していた男性には「てんかん」の持病が有り、過去10年間で、てんかんの発作が原因の事故が 5 回、それ以外の事故も 7 回、合計12回も事故を起こしていました。信じられないことに本件で13回目の事故だったのです。運転手は、医師から自動車、特に重機などの大型特殊自動車の運転をしないように厳しく指導されていたにもかかわらず、病気を隠して無申告で不正に運転免許証を取得し続け事故当日、持病の服薬を怠り発作で意識を喪失しクレーン車を暴走させて起こした事件なのです。
平成30年 4 月18日で、クレーン車事故が発生してから 7 年の年月が経過します。
7 年と云えばクレーン車事故を起こした運転手の刑事裁判での実刑判決「懲役 7 年」と同じ年月です。 6 人の小学生の命を奪っておきながら、わずか 7 年の刑罰なんて短過ぎると感じます…
この春、事故の懲役刑が終了してしまうのです。加害者は 7 年で刑期は終わってしまいますが、命を奪われた被害者の子供たちは何年経っても家族の元には帰って来ることは出来ません。事故当日、法律のことなど分からない私たち 6 人の遺族は、自動車運転過失致死傷罪でしか起訴出来ないことを知り、量刑の軽さに苦しみました。
なぜ、子供たちは何も悪い事をしていないのに、集団登校で幅 5 メートルもある広い歩道を歩いていたところに、法律を無視して取ってはいけない免許を取得して、小学生の列にクレーン車で突っ込み、子供たちをクレーン車の底に巻き込みながらも走り続けた危険な運転行為。過去に何度も持病の発作で意識を喪失させて事故を起こしていた行為など自分自身が事故発生の根本的な原因をわかっていたにもかかわらず、どうして罪の重い危険運転致死傷罪で起訴できないのか、とても不思議でした。
誰が見ても危険な運転行為なのだから、危険と名の付く、量刑の重い危険運転致死傷罪を適用して起訴して欲しかったのです。しかし当時の法律では危険運転条文にクレーン車事故の内容は合致しないとのことで、危険運転での起訴は見送られてしまったのです。
その後私たち 6 人の遺族は、身も心も折れたままの状態で裁判を向かえたのです。罪名は自動車運転致死傷罪です。最高刑は懲役 7 年、私たち遺族は未来を奪われてしまった子供たちの無念な思いや、幸せな生活を送っていた私たち家族の生活をめちゃくちゃに壊されたことを思うと、一日の減刑も許すことがあってはいけないと考え、被害者参加制度を利用し、裁判を行いました。
裁判では運転手の過去の勝手な行動や私生活などいろいろな事実が判明しました。中でも特に運転手の証言では事故当日「てんかん」の薬を飲んでいなかったので「今日は死人がでるかもしれない」と聞いたときには怒りで身体の震えが止まりませんでした。また段階を踏んで大型特殊免許証を取得する助長行為をしていた母親の「いつの日か誰かが犠牲になってしまうかもしれない」との発言を聞いたときには自動車の運転を止めさせられるのは母親のあなたしかいないのにと物凄い憤りを感じました。
運転手に対して私たちの弁護人からの質問で犠牲になられた子供たちの名前を言ってくださいと尋ねたところ一人の名前も答えることも出来ませんでした。事故から半年以上も経過しているのに何のために勾留されているのだろうか。自分で犯した事故に向き合わず何も反省もしていないのかと思うと、こんな奴に卓馬は殺されてしまったのか、私はこんな奴から卓馬を守ることも出来なかったと思うと自分に情けない気持ちで一杯になってしまいました。
辛い裁判の中、意見陳述で卓馬との思い出や卓馬の成長の楽しみ、卓馬が自分と同じ社会に存在しなくなってしまった喪失感を訴えました。
そして判決。もし減刑されたらどうしようか、その時は控訴しかない気持ちや、裁判に参加して出来ることは精一杯やったのだから大丈夫と自分に言い聞かせて裁判長の判決を聞いたのです。
裁判長から一日の減刑もなく懲役 7 年の実刑判決が言い渡されました。
裁判長の言葉を聞いた瞬間、私は涙を流していました。それは減刑されなかった安堵の気持ちからだったと思います。またその時、この判決が今は目一杯だと思うと、とても複雑な気持ちでもありました。
裁判が終了し、閉廷後退廷して行く私たちの姿を裁判長と裁判官二人が最後まで見送っていた事を覚えています。私は裁判長たちを見て思ったのです。公平な裁きを行っても現在の法律では「懲役 7 年」が限界なのですよ、「時代に見合って柔軟に対応出来る法律が今はないのです」と私たちに伝えているような気がしました。
私たち遺族は、再度類似した事故が起きて私たちのように辛くて苦しい思いをする人が出てはいけない。そして、持病を隠して自分で意識を喪失しまうことを認識して運転を続けていた故意の犯罪行為が過失の事故として取り扱われてしまう現行法には凄い違和感を覚え、厳罰化で悪質な事故を防止する思いで病気を隠した死傷事故に法定刑が重い危険運転致死傷罪が適用される「刑法の条文改正」及び運転免許の不正取得を防ぐ「運転免許制度の改正」を求める活動を始めたのです。
署名活動では、病気の方でも真面目に病気と向き合って社会の一員として一生懸命頑張られている方の生活を狭めてはいけない。
真面目に生活を送っている方にも迷惑をかけている「ルールを守れない人」を対象とした法改正を訴えて活動をしたのです。
最終的には法務省、警察庁に全国から集められた各20万人分以上の署名を提出し、当時の法務大臣・国家公安委員長から、この問題は国として対応していきますと前向きな言葉を貰い法改正に向かって大きく進みだしたのです。
平成26年 5 月、一定の病気の影響で運転に支障が生じる状態での死傷事故に、15年以下の懲役とする罰則を設けた新法「自動車運転死傷行為処罰法」が施行され翌月には運転免許の取得・更新時に、病状を虚偽申告した際に罰則を設けるなどした「改正道交法」も施行されたのです。
私たち遺族は 6 人の子供たちの命が国を動かしたと感じました。
卓馬、法改正が行われて今は法律が変わったよ。法改正されたことで卓馬は新法が適用されて処罰される人が出るのではなく厳罰化で抑止の力が大きく働いて命の重みを理解してくれる人が増えることを願っているよね。そして、みんなで社会のルールを守って「事件・事故」の起こらない幸せな社会になる事を見守っているのですよね。
パネルでの卓馬の笑顔は、免許証を持っているみなさん交通ルールはみんなで守って、ルールを守っている小学生が安全安心に登下校出来る社会にしてちょうだいと伝えているように感じます。
被害者支援センターとちぎでは、各地で犯罪防止を目的として、理不尽な事件・事故に巻き込まれてしまった被害者のパネルの展示会を行っています。私がパネル展に足を運んだときには、被害者支援センターの関係者の皆さんからは、温かい言葉を掛けていただきいつも精神的に支えてもらい、とても感謝しています。
支援センターの職員の方から聞いたことがあります。被害者の支援をする事は勿論の事、被害者を生まない出さない社会にする活動をして行く事が仕事ですと。
卓馬はパネルの中からでしかメッセージを発することしか出来ませんが、たくさんの人がそのメッセージを目にし、さまざまな受け止め方で考えさせられることを卓馬はしていると、私は思っています。
もうこれ以上理不尽な事件・事故に巻き込まれて悲しい思いをする被害者その家族が出ない社会になる支援センターの活動のお手伝いをガンバレ卓馬!